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天国の弟へ「私の手の中に弟の夢のかけらが今も温もりとして残る」

ちーちゃんさんから届きました、まあちゃんへのお手紙をご紹介します。

ちーちゃんさんからまあちゃんへ「天国への手紙」

夢のかけら

うたた寝から目覚めて車窓から初めて見た東京は
夢と見紛う未来都市だった
深く静かな闇に包まれる田舎から時空を超えて私たちは未来都市にいた
見ひらいた視界いっぱいに光が蠢いていた

百年の未来へのタイムスリップに、私たちは慄きとトキメキで心がいっぱいになった
幼い弟は現実に追いつけないまま、ただただ瞳を輝かせていた

あの日の慄きとトキメキを抱えて上京
未来都市は現実世界になり、四半世紀の当たり前の暮らしになり
あの頃の私たちの歳を超えた子供を持ち
あの頃の父や母の想いを抱えて
あの日の未来都市にいる

木枯らしが堪える初冬
でも東京の寒さはどこかヌルく締まらない
それでも街は冬の慄きを紛らすようにいっぱいの光で夢に誘う
凍える心をトキメキで満たすために

宵の街の光を追って、闘病している弟へ写真を送り
東京のイルミネーションは凄いね と笑い合う
キラキラしたイルミネーションを見ながら、四半世紀追いかけたトキメキを想う

東京でやってみたかったことは、ずいぶん叶えられたかな
噛み締めるように、自分に言い聞かせるように、弟は言葉にした
そうだね
信じられないね、もうすぐ五十才だよ
明日がまた来るように、私も言葉にした

身体も凍える季節の足音が響く
静かな静かな夜
私はもう一時間近く弟の手を握っていた
細胞の一つ一つから夢が抜けていく
ただこの時間に集中していた
慄きとトキメキを夢として共有した私たち二人だけで
真夜中の病院の静謐な空気にゆっくりゆっくり溶け込んでいき
弟の魂は夢のかけらになった

私の手の中に弟の夢のかけらが今も温もりとして残る
少しだけ燻んでしまったあの頃の慄きとトキメキ
それと私たちの夢のかけら

これからも生きていく

お手紙ありがとうございました。

ちーちゃんの思いが、まあちゃんへ届きますように。

日高りえ

 

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